やさしい生き物

夜に病室でひとり、廊下を歩く看護師さんに気づかれないように泣くことにも慣れた。このまま入退院を繰り返すのかもしれない。そんなことはなくて、すぐに良くなるのかもしれない。1回目の入院代は払えたが、次は払えないと思う。


後遺症は良くなるのかわからないらしい。地元の脳外科の先生は「治らない人は治らないから僕ができることはありません」と言っていた。入院先の先生は「後遺症が良くなるように手を尽くすことはできるし、片耳が聴こえないのも手術で治す方法はあるから諦めず頑張ろう」と言ってくれた。どちらの先生が言うこともきっと本当で、真摯な対応なのだとわかっているが、これから先また働けるのか、ひとりで生活できるのか、後遺症のせいで誰かに迷惑をかけたりしないのか、不安で不安で仕方がないので希望のある言葉を信じようとしてしまう。


数ヶ月後に退院できてもしばらくは杖を使って歩くらしい。自転車には乗れないので東京の自宅は引っ越さないといけないかもしれない。耳は手術で治らなくても補聴器がある。体調も良くなってきた。体の麻痺はもうない。大丈夫だと言い聞かせる。


実家にいると、実家の暗い部分ばかり考えてしまう。犬を撫でて暮らせるのはよかった。いつかわたしも犬と暮らしたい。自分に優しくしてくれる生き物が恋しいだけかもしれない。自分の欲望や自分のくだらなさについて考えるとき、虚しくてたまらなくなる。