過ぎる光を

病院のベッドで眠るときの寝苦しさや体の痛みに、夜行バスの雰囲気を感じて懐かしくなった。わたしは夜行バスが好きだ。まず夜に出発する乗り物が好きだし、30人ほどが同じ場所に向かって眠ったまま移動するだけの空間を愛おしく感じる。たくさんの他人の生活の匂いがかすかに共有されていて、それなのに自分の居場所だけは小さく確かに存在する。車内のアナウンスが聞こえるくらいの音量でスピッツを聴きながら、光が入らないようにこっそりとカーテンを少しだけめくって高速で過ぎていく光を見る。あのときの感じが好き。病院のベッドはどこにも辿りつかないし、夜行バスのように好きにはなれないけど。


体調が少し良くなったことで、社会から取り残されている感覚に苛まれるようになってきた。ベッドの上で横になったまま、トイレや寝返りだって看護師さんに手伝ってもらい、時間がくれば栄養のあるご飯が届く。ベッドで眠ることに申し訳なさを感じ、自分の存在が情けなくて仕方がなくなる。わたしはこれからどうすればいいんだろう。元気になって歩けるようになったとして、ただ生きているだけで何になれるんだろう。今日はとても寒かったらしいが、カーテンで囲まれたベッドの上では何もわからなかった。