海をひとつの

このあいだ部屋の大掃除をしていたら去年から今年の夏にかけて作った短歌が出てきた。この半年ほどは短歌を避けていたし、どうしてもどこにも所属できなかったし、きっとこの先誰かに見せることもどこかに投稿することもないし、情けなくなるほど下手だし、捨ててしまおうと思ったのですが(実際同じように2015年に作った分は去年ほとんど捨てた)、なんだかそれもかわいそうな気がして、だってほんとうになかったことにはできないし、あったし、これは理想の自分を羨んで憎む醜い自分の一部でもあって、そんなものもうひとりで抱えていられないし、死ぬほど恥ずかしいけど、連作だけインターネットに載せようかと思います。すみません。
わたしの心の中のベトベトになった憧れのひとつのお葬式みたいなものです。



海をひとつのこころと思えば     
 
いつまでも覚えられない東京の路線図は逃避行もできない
沛雨の街のあんまりきれいじゃない男の子たちのライブステージ
ぼくの背にたてがみが生えきみの手に鱗が生える夢ばかり見る
海のある街で育った 海のある街に鍵屋はひとつもなかった
雨よ 落ちることが生きることで寂しくはないか 触れたい街はないか
雨が落ち夢が落ち地図上の電波塔を数えて暮らしていたね
愛は祈りと呪いとおもうぼくたちはたどり着けない海を光らせ
道、ずっと歩いても道 水槽の裏側に触れたときのように
最後まで追いかけられない鳥だけを鳥と信じて破る約束
蘇ることを知りたいきみのため百ぺん灼いてもらえぬからだを
鍵って呪いのはじまりでしょう 錆びた鋲 赦されなくてずっとおだやか
ばらまいた小銭に鳩が寄ってしまうこととか考えぼくは寝ない
約束を守り続けるものとして教壇にあるメトロノーム
きみが散るときの炎が好きだった追いついて拭く涙痕としても
ぼくたちは夜汽車の終着駅がこの街にはないとまだ信じてる
詩を手懐けられずにいてきみを呪うね汚されるための白い獣毛
死を手懐けて船に乗ろうねぼくならば触れても燃えない火になったから
海をひとつのこころと思えば潮風に肺がくるしいぼくもこころで
ぼくが見る最後の夢は花の夢桃の蕾がもげる夢
ぼくはもう飴玉を噛み砕いたりしない地獄の言語を学んで
きみの考えた話に出る散った桜を掃いてるひとになりたい
悪役のように舫いをはずすときぼくもひとつの惑星でしょう
約束を破ったこともあるだろうあやまたず咲くさくらばなでも
どうしてもたどり着く場所を愛と呼び鱗が光るために海がある
花が散るなら今日が良かった長い長い夢で結末までだけ生きて
もう言いたいことはないけど言葉は呪いでぼくは呪われる覚悟がある
ほんとうは地獄に近づいてはじめてうまく息を吸えたのだった
天国でする呼吸 でもこの先はおなじ運命へたてがみを失くす
遠雷も祈りのひとつ 神よりも人の命で見る恋だった
さだめなら喰い飽きるだけ人間のしてきたように無傷で帰ろう

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